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藍の仕事を未来に残す。
進化し続けるWatanabe'sの藍色

株式会社Watanabe's / 代表 渡邉健太 様


阿波藍の産地として知られる徳島県上板町。
この場所で藍染の原料である藍の栽培、染料の蒅(すくも)造り、染色、製作まで一貫して行っている
株式会社Watanabe'sと、日本最大の陶磁器生産地である岐阜県東濃地方でつくられているORIGAMIのコラボレーション商品を発売するにあたり、Watanabe's代表の渡邉健太さんにWatanabe'sの活動や藍染とコーヒーの以外な共通点、藍染のこれからについてお話を伺いました。
さっそくですが、渡邉さんが藍染の道に進んだきっかけを教えてください。

僕は山形の出身で、父は卸売市場で鮪の競人の仕事をしていて、父には「手に職があっても儲からない仕事だから、公務員のように安定した職に就きなさい」と言われて育ちましたが、職人の仕事への憧れはずっと持ち続けていました。

やりたいことが見つからなかったので、いろんな業種の人と出会って話を聞いて、自分の進みたい道を見つけるために東京の貿易関係の会社に入りました。
営業の仕事をしながら日々忙しく過ごす中、雑誌で見つけた職人特集で藍染を見つけておもしろそうだなと思ったので、都内でやっている藍染体験を探して次の休みに行きました。

体験当日、素手で藍染をしているうちに「これだ、僕はこれをやらなきゃいけなかったんだ」と肌で感じたんです。

それから4日後には会社に辞表を出して藍染の仕事を探し始めました。

すごい行動力ですね!そこから徳島県に移住されたのはどういった経緯ですか?
業界や興味のあった絞りのことをもっと知りたいと思い、いろいろ調べる中で東京の清瀬にある工房さんに話を聞かせてほしいと連絡を取りましたが、お電話では僕の一方的なお願いばかりで取り合ってもらえなかったんです。
それでも諦められず手紙をお送りしたところ熱意が伝わりお話を伺えることになりました。それはもうたくさんの藍のお話を聞かせていただきました。藍に携わっていく心構えを教えてくださった恩師です。またその時に藍染の染料である蒅が足りていない現状を知りました。

染料になる蒅(すくも)を造る「藍師」と、蒅を染色液にして染める「染師」、どうせやるなら僕はその両方をやりたいと思いました。
それらを学べる環境を探していたら、徳島県でこの上板町が藍染の文化を守るために人材育成として地域おこし協力隊を募集していたので応募しました。
なるほど。それからすぐにWatanabe'sを立ち上げられたのですか?

地域おこし協力隊として採用され研修がスタートしましたが、その時期は収穫の繁忙期で作業量の多さを目の当たりにし、研修3日目で1人でやるのは難しいかもしれないと思い、僕と一緒に採用された同僚と話し合い、町役場に副業の許可を取って、協力隊の活動とは別で2人でBUAISOU.を立ち上げました。

BUAISOU.では原料となる藍の栽培をはじめ、蒅(すくも)造り、染色、デザイン、製作まで昔から分業制であった藍染業を一貫して行っていました。国内外での展示やワークショップなどにも取り組み、組織のメンバーが増えると組織管理や展示会などで外に出ることが増えて現場から離れることが多くなって。僕自身は色をもっと良くするにはどんな土を作ればいいか、どんな苗を作ればいいかなど生産や技術の面でトライしたいことがたくさんあったので、BUAISOU.が軌道に乗ったタイミングで5年ほど前に独立し、今のWatanabe'sを立ち上げました。

自分のやりたいことに真摯に向き合った結果、独立という道を選ばれたのですね。

そうですね。僕が藍染を始めた12年前までは藍師と染師の仕事は分業であることが当たり前で、両方行うことは異例中の異例でした。

藍師と染師の仕事を両方やりたいと言うと、周りからさまざまな意見がありました。藍のこともこれまでの歴史も何も知らない素人の若造がいきなり来て両方をやるなんてと遠回しに聞こえてきたり。その中でもすごく応援してくださる方もいて。背中を押してもらいとても感謝しています。実際にやってみると分業にしていた理由も分かりました。

だけど、僕はどうやってこの藍が染まったかを0から10まで説明できないことの方が歯がゆかったんです。

やるなら最初から最後までやりたかったし、伝えたいと思いました。

分業制が主流であった「藍師」と「染師」の仕事を一貫して行うことで気付いたことはありますか?

原料の生産から製作まで一貫して行うことで原価に対しての利益率などが分かるようになって、一次産業である原料の蒅を作っている藍師さんたちに全く利益が落ちていない実状が分かりました。そういうことが江戸時代から続いていることに衝撃を受けたんです。藍師さんがどんどん減っていく理由も分かるし、その結果原料の蒅が手に入らなくなってしまう。これでは文化として続かないですよね。

今では藍師と染師の仕事を両方やることが主流になってきています。藍染の文化を未来に残していくために必要な変化だと思っています。

藍の苗。5月頃から畑に定植される。藍畑にまく肥料は、Watanabe’sと親交のある近隣の養豚場でつくられる完熟堆肥を使用。徳島県の特産品なると金時を金時豚が主食とし、その糞や尿を堆肥化。発酵によってうまれる完熟堆肥は冬でも湯気が立ち昇るほど有効微生物を含む上質な肥料がWatanabe'sの藍畑を豊かにしている。
7月から8月に刈り取られた藍は葉と茎を選別し乾燥させる。
10月から2月は乾燥葉を土間(寝床)に広げ、水を打ち満遍なくかき混ぜ発酵させる。「寝せ込み」というはじまりの日から100日以上、10数回の「切り返し」を行うことで藍染の原料となる蒅(すくも)ができる。写真は切り返しの様子。

藍の葉を発酵させる土間(寝床)切り返しで崩された乾燥葉の山はまた綺麗に整えられ、藁で編んだむしろをかけて冬の寒さから守る。

古くからこの寝床には神様が宿ると言われており、作業が終わると神様を奉る。

「蒅」を造る工程を見せていただいたとき、コーヒーの生豆の生産プロセスになんとなく似ているなと思いました。

そうなんです。

蒅は藍の葉を刈り取り、乾燥させた後に約120日かけて水と酸素(葉と土に含まれる菌)で熱発酵させます。

藍の植物の種類を勉強したときに南米に生息している藍の品種がマメ科でコーヒーの木に似ていたんです。おもしろいなと思って、蒅造りに活かせるところはないかコーヒーの生産プロセスも探りました。

それまでは藍の葉を乾燥させるためにビニールハウスの中に広げて、上下を入れ替えるように定期的に葉を耕して乾燥させていましたが、コスタリカのコーヒー農園がコーヒーチェリーをドラム式乾燥機で乾燥させている写真を見て、こっちのほうが効率的かもしれないと思い、それに近い乾燥機を日本でメーカーに製造してもらいました。すでに試験も行い、今年の6月末から生産工程に取り入れる予定です。

試験をした結果、ドラム式乾燥機で乾燥させたほうが効率がよくなるだけでなく、葉と葉が擦れてストレスを受けることで、藍の色がより出せるようになり品質も向上しました。


6月から蒅を造る工程に導入されるドラム式乾燥機。それまでは藍の葉を乾燥させる作業は夏の高温のビニールハウスの中で人の手で行っていたが、この乾燥機を導入することでたくさんの葉を丸1日ほどで乾燥させることができる。


効率性だけでなく品質まで良くなったのですね!渡邉さんにとって品質のいい藍とはどういうものですか?

見て感じる色の美しさはもちろんですが、さらに色幅が多く出せるということだと思います。すごく薄い色からものすごく濃い色まで出せること。

更に、発酵菌が元気で染色期間が長持ちするということも重要です。

蒅を灰汁、貝灰、ふすま(小麦の表皮)を混ぜて発酵させて染色液にしてから使用できる期間が6カ月くらいだったものが、今は1年以上使えるようになりました。藍の染色液は人間と同じで、歳相応の色のよさがあります。期間を経ると色はだんだん薄くなりますが、色が濁るということはありません。期間が長ければ長いほど、染められる総量が増えるのでポテンシャルがかなり上がっています。年々品質も向上しているように感じています。

蒅、灰汁、貝灰、ふすま(小麦の表皮)を混ぜて発酵させてつくった染色液。染色液をつくることを「藍を建てる」という。

コーヒーの生豆の生産プロセスを取り入れようと思ったのはとてもおもしろい発想ですね。コーヒーとの共通点は他にもありますか?

コーヒーも淹れる人の技術によって味が変わりますよね。


藍染も染める人によって色が変わります。技術面だけでなく、常に穏やかな気持ちで染めるということを大事にしています。技術の鍛錬をすることは言うまでもないですが、僕は心の鍛錬がとても大切だと思っています。

例えば、嫌なことがあったときにその気持ちを引きずったまま染めると染まった色も全然よくないんです。

自然から生まれた色のままで美しいものに人間の我を通すことでアウトプットされた美しさが少なくなってしまう。自然の色を100%そのままで出すことができれば美しいに決まっています。自然のものを人間の手を通して染めるということは、その間のパイプである人が常に詰まりのない綺麗な状態でいること、無心でいることで美しい色を生み出せると思っています。

渡邉さんが染めているところも見せていただきましたが、確かに染めている間はとても静かでお話ししているときとはまた雰囲気が違っていました。
今回コラボレーションしたプロダクトについて、製作のポイントを教えていただけますか?

今回製作した手ぬぐいはかなり画期的なことをしています。

型染めの場合、デザインから型紙に版をおこして、糊伏せし、染色をします。

今回いただいたデザインは型染めで防染をするには線が細すぎて、通常であればデザインを修正してもらうか、全部染めた後に色を抜く抜染という方法を選択するというのが一番簡単でした。抜染だとブリーチ剤を使用することになり、それだと生地も傷んで弱くなってしまうので長く使ってもらえなくなる、薬剤をそのまま水に流すと藍を育てている畑に流れてしまうのも嫌でした。元のデザインをそのまま表現したいと思い、スクリーンの製版屋さんに相談して、型染めに使用できるシルクスクリーン版が製作できないか相談しました。その結果、細かいデザインも再現でき、型染めで染められるスクリーン版が出来上がりました。版自体も型紙より丈夫になったので、摩耗しづらく版を使用できる回数も増えました。

試行錯誤していただきありがとうございます!総柄の方はドリッパーの細い線がデザイン通りに表現されていますし、ORIGAMIとWatanabe'sのロゴも素敵です。今回は木製ホルダーも藍で染めていただきました。こちらについてポイントはありますか?

この木製ホルダーは天然の桂の木を使用していて、削り出された部位や木目によって色の入り方が違うので、ひとつひとつ染まり具合を目で確認しながら染めました。

天然素材なので染めたときにホルダーが歪むのを極力少なくするために、濃い染色液で浸け時間を短くし、一気に乾燥させず、湿気を維持しながら時間をかけてゆっくり乾かすなどの工夫をしました。

色が入りづらい部分は指で擦りながら色を入れる。

2回染めたホルダー。削り出された木材の部位によって藍色の出方も少しずつ異なる。

3回目の染色後。渡邉さんがひとつひとつ染まり具合を見ながら染色液につける時間を調整する。
最後にWatanabe'sのこれからの課題や展望を教えてください。

藍染はまだまだ高価なもので、人々の日常に寄り添える価格ではありません。

どうして高価なのかということを伝える方法として、手間暇がかかるということは既にお客様には伝わっていると思うんです。手間がかかるということをただ伝えるのではなく、お客様に藍染のことをもっと知ってもらいたい。

Watanabe'sでは天然の藍染キットを製作し販売しています。お客様が自宅で藍染をして蒅のことや、藍建てについて知ってもらう。これまでは自分たちの知識や技術を守るために業界全体で情報がクローズにされていましたが、オープンにしてお客様の知識レベルが上がることで理解が得られると思います。

そして作り手である僕らは一部を機械化するなど生産工程を見直す、品質をもっと良くするために常に研究、実験を繰り返してお客様の日常に寄り添える現実的なコストを目指しています。

もっとたくさんの人に藍染の製品を使ってもらうには、作り手と買い手のコミュニケーションと相互理解が必要だと思っています。

「もっと良い蒅をつくりたいし、染めの技法もいろいろ実験したい。やりたいことはたくさんあります。多分僕の代で答えが出ることはないですが、次の世代にはデータとして残したいんです。」と話す渡邉さん。

常に考え、挑戦するWatanabe'sの藍色はこれからも進化をし続けます。





今回のWatanabe'sで製作した手ぬぐいと木製ホルダー、このコラボレーション企画のために生産した限定カラーのドリッパーの詳細と購入は特設ページをご覧ください。

PROFILE

株式会社Watanabe's

 代表 渡邉健太 様


 

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