ただの焙煎大会ではない、ロースターの仕事の本質を引き出す「1st crack coffee challenge」に託す業界の未来|ギーセンジャパン代表・福澤由佑さん
───ギーセンジャパン主催の競技会『1st crack coffee challenge』は、どのようなことを目的に開催されたのでしょうか。
コーヒー焙煎機のメーカーとして、ロースターへのサポートをしていきたい。一緒に成長していきたい。そんな想いから、ロースター同士がお互いに切磋琢磨し合える大会を主催できたらと本大会の開催に踏み切りました。すでに世界には多数のコーヒー大会が存在しますが「よりロースターの技術にスポットライトを当てた競技会にできたら」と、評価軸やルールに工夫を設けています。
───ぜひ、こだわりの一つである「評価軸」について詳しく伺いたいです。
予選では「焙煎の技術」を。決勝では「プレゼンテーション」に評価軸を置いています。まず焙煎の技術ですが、競技用のサンプル豆を自身の焙煎機で再現してもらうことで、カッピングと焙煎の力量が試される形式にしました。
───なぜ、そのような形式をとったのでしょう。
ロースターとしての大事な要素の一つは、品質を変えずに毎日同じコーヒーを提供し続けられること。そのためには日々変化する季節や湿度、気温に合わせて微調整をしなければなりません。そうした技術面を競う意味でも、「サンプルに対してどれだけ近い味が出せるか」といった評価軸を設けました。
───なるほど。よりロースターという仕事の専門性を問う、評価ポイントですね。
実際のジャッジも、公平に行いたい。そこで、味の素AGF社の技術サポートにより科学的な数値に基づいた評価ができる『ガスクロマトグラフィー分析』という分析評価技術を導入しました。人間の舌だけでは難しかった評価も、この装置によって客観的に表せるようになりました。
その上で、日本を代表するコーヒーコンサルタントやロースターに、カッピングジャッジをしてもらうことで、競技者の本質的な技術力向上や公平な評価につなげられたらと考えています。
───さらに決勝では「プレゼンテーション」に重きを置いたと伺いました。こちらは、どのような狙いがあったのでしょうか。
一番は、“表現力”を身につけてほしいという想いですね。ロースターという仕事は、仕事柄、黙々と作業をする職人気質なところがあると思うんですよ。
技術を磨くことはもちろん大事。でも、技術力が問われる予選を突破した競技者には、“自分の言葉で表現できる力”も身につけてほしいと思うんです。聞く人の心を動かす伝え方ができれば、もっと多くの人にコーヒーの魅力や価値を届けられる。ロースターという仕事の幅や可能性も広がっていくはずです。
───表現の幅を広げることにより、可能性の幅も広がっていきますね。
そんな想いから、決勝ではプレゼンテーションに重きを置きました。多くのロースターにとって、新たな挑戦だったと思います。競技会を通じて新たなスキルを身につけて、次のステップに活かしてもらえたら嬉しいですね。
───本大会では、競技参加者が「18歳〜35歳まで」と年齢制限を定めているのも特徴的でした。そこへはどのような狙いがあったのでしょうか。
コーヒー業界を俯瞰して見ると、日本のトップや世界を舞台に活躍している人たちは総じて30代後半〜40代の方々が多い印象を受けました。もちろん、これまでのキャリアの積み重ねの成果として活躍される姿は、若者に刺激を与えるでしょう。
一方で、そうしたトッププレーヤーに憧れる20代〜30代の若い世代がチャンスを掴む舞台も必要ではないかと思ったのです。競技会を通じて、成長したり、自信を持てたり、悔しさをバネに新しい挑戦に踏み出したり、それぞれのステージに駆け上っていくきっかけを提供したい。そのため、あえて若い世代に絞った年齢制限を設けさせていただきました。
───そうした狙いがあったのですね。
僕自身ヒップホップやラップなんかも好きなのですが、彼らを見ていると若手が著名なラッパーに挑む!というようなシーンが見られたりもして。いいなぁと思うんです。若手のモチベーションになりますし、逆に上の世代が下の世代から学ぶこともあると思うんですよ。そうやってコーヒー業界全体が底上げされていく仕掛けができたらと思いますね。
───素敵な想いですね!若い世代にチャンスを与えたい、と考えるようになったきっかけはあるのでしょうか。
一番は「コーヒー業界は、長く働ける環境じゃないのかもしれない」と課題感を抱いたことにあります。
バリスタの方々を見ても、20代後半〜30代前半で家庭を持って子どもができると、業界を去っていく人が多いように感じていて。そうした光景を見て、コーヒーは好きだけど、キャリアの選択肢やビジネスとしての可能性に限界を感じてジョブチェンジする人も少なくないのでは?と思ったんです。
───具体的にはどのような点でおいて、そう感じられたのでしょう。
たとえば店舗でキャリアを積んで、次のキャリアは?と聞かれたときに、独立しかない。そうなってくるとどうしても個人戦になってしまいますよね。もちろん開業することも一つの選択肢ですが、大きな組織やチーム単位で、ある程度収入の安定も保証しながらコーヒーの仕事が続けられる選択肢があったもいいんじゃないかなと、個人的には思っています。
僕はもともと、異業種からコーヒー業界に入ってきた外の人間です。新卒で日本の広告代理店に入社し、その後アメリカの西海岸にある小さなマーケティングファームで働いていました。そうした外の視点だからこそ感じる課題なのかもしれませんが、「若い世代から見て、コーヒー業界はどう映っているんだろう」という視点は大事なように思います。
───福澤さんだからこそ、着目できる課題なように感じます。
「コーヒーが好き」この仕事に携わっている人なら、みんな同じ気持ちなのではないでしょうか。だからこそ、“年齢を重ねても、働き続けられる”、つまり持続可能な環境を少しずつ構築していく必要があると思うんです。
今の若い世代が、30代〜40代になったときに、コーヒー市場で商売ができるのか。
楽しんでコーヒーの仕事を続けられるのか。
そうした視点を大事にしながら若い世代を応援することが、これからの日本のコーヒー業界の繁栄につながると信じています。
PROFILE
ギーセンジャパン
代表 福澤由佑さん
https://giesen.co.jp/