自然豊かな地で紡がれるクラフトマンシップ。
“コーヒーが苦手な焙煎士”が生み出すギアと焙煎豆
SNSに投稿される動画や写真も、生み出されるアイテムも。洗練された空気のなかにどこか無骨さが見え隠れして、遊び心が散りばめられていて。どれも、ログハウスの雰囲気とぴったりマッチしています。そんなHayama Log Cabin Coffeeの世界観には根強いファンがたくさんいます。
今回は、山口さんが暮らすログハウスを訪ね、コーヒーとの出会いや、Hayama Log Cabin Coffeeに込める思いについて聞きました。
じつは、もともとコーヒーがあまり好きではなかったんです。好きな飲み物は白湯やお茶……という感じ(笑)。以前は会社員として営業職をやっていたのですが、取引先と打ち合わせをするとなると、かならずと言っていいほどコーヒーが出てくるじゃないですか。でも、話の最中に飲むタイミングがなかなかなくて、帰り際に冷めたコーヒーを一気に飲み干すことになる。あれが、本当に苦行だったんですよ(笑)。
葉山に引っ越してきたことが大きなきっかけになりましたね。以前は横浜に住んでいて、毎日営業の仕事で忙しく過ごしていました。仕事にやりがいは感じていたし、頑張れば頑張るほどお金は増えていくけれど、あるとき「どんなにお金を稼いでも、自分の好きなものにお金を使えなかったら意味がないんじゃないか」って、気づいたんです。それで会社を辞めることにして、現在はフリーでPRの仕事を手伝ったりしています。
そうやって生き方や暮らし方を見直すなかで、葉山の地に住むことを決めました。葉山といえば海というイメージがあるかもしれませんが、山や森の風景に惹かれたんですよね。さらに僕はクルマが大好きで古いJeepに乗っているのもあり、世界観がマッチするようなログハウスに住みたいな、と。
コーヒーを始めたのも、ログハウスの世界観と相性がよさそうだったから。苦手だったけれど、ちゃんとした器具と豆を買って淹れてみたら、おいしいんじゃないかって思ったんです。
山口さんが使用しているのは「サンプルロースター」というアナログな焙煎機。少量から豆を焙煎することができ、大型の焙煎機を使用する人が新しい豆を試す際などに用いられることが多い。山口さんは「自分の手で焼く」ことにこだわり、こちらの焙煎機を使用しているとのこと。ややスモーキーな味わいに仕上がるのも気に入っているポイントだそう。「機械を使えば数値的においしく焼くことができますが、僕は味って気分で変わると思う。なんとなく、全部自分の手で焼いたほうが味が乗ってくれるんじゃないかっていう……勝手な希望を持っています。少しずつ、すべて手作業で焼くのは正直大変で、嫌になることもありますけどね(笑)」
それが、結局“味“にはハマりきっていないんですよ。今でもやっぱり飲みにくいと感じることがあって、どちらかというと苦手かもしれない。だけど、コーヒーの佇まいが好きなんですよね。なんて言うんだろう……豆の色や形もそうだし、ギアも好き。たとえば、「ORIGAMIの赤いドリッパーにこのサーバーを合わせよう」なんて、コーディネートするのが面白かったり。それで写真に収めて、自分の好きな世界観を表現できるのが楽しくて。
ありがとうございます。だから、豆の焙煎をするうちに、ギアにもハマっていったんですよ。「もっとこんな素材を組み合わせた道具があればいいのに」なんて考えるうちに、自分で作ってみようと思うようにもなりました。
そうですね。全部自分で作っています。豆の焙煎もそうですが、自分の手を使うことが好きなんでしょうね。ギアも、自分が使いたいものを自分で作るうちに、少しずつ販売させてもらうようになっていったという感じです。
バイクで海に出てコーヒーを淹れることもある山口さん。適量の豆をコンパクトに持ち運ぶキャニスターが欲しいと思い、ドロップ(飴)缶からヒントを得て生まれたという品。缶を仕入れ、山口さんみずからの手でペインティングして仕上げている。
鉄の溶接も山口さんが行う。販売しているコーヒーギアのほか、ログハウス内の家具も手作りのものが多いのだとか。「ドリッパースタンドは、ORIGAMIのドリッパーに合わせたくて作ったものです。黒を基調にすることで、僕が持っているレッド、ネイビー、マットグレーの3色のドリッパーすべてにマッチするなと思って」
実店舗を持つことなどは特に考えていなくて、今後もオンラインでの販売を続けていけたら。ありがたいことにお客さんも増えてきていますが、あまり手広くやりすぎることはせず、自分の手で作れる範囲を大切にしたいですね。今は焙煎士としてやらせてもらっているものの、これからはさらに、ギア作りに力を入れていきたいとも考えています。コーヒーを淹れるための道具だけじゃなく、たとえばコーヒーテーブルだったり、家具なんかも作ってみたい。「コーヒー」と名のつくアイテムを、自由に作っていけたらいいですね。僕自身が思い描く魅力的なコーヒーの世界観を、これからもかたち作っていきたいと思います。