目指すのは「コーヒーを通した世界平和」。幸せの連鎖をより広く、より遠くへ。

目指すのは「コーヒーを通した世界平和」。幸せの連鎖をより広く、より遠くへ。

株式会社QAHWA/CEO 井崎英典

2020.10.01

2014年に、24歳にしてアジア人初のワールドバリスタチャンピオンに輝いて以来、大手飲食チェーンのコーヒーメニュー開発やコンサルティング、エスプレッソマシンメーカーとの研究開発など、“コーヒーエヴァンジェリスト”として華々しい活躍をされてきた井崎英典さん。2019年には株式会社QAHWA(カフア)を立ち上げ、ますます活動の幅を広げています。今回は、そんな井崎さんが思い描くビジョンやご自身の活動にかける思いを伺いました。

2019年に「株式会社QAHWA(カフア)」を設立されたのはどんな経緯だったのですか?

それまでは個人事業主としてやってきましたが、2017年に限界ギリギリまで働いたんですよ。年間230日くらいが海外出張で、日本にいるときも隙間にスケジュールを入れて……。仕事はもちろん、スケジューリングも取材対応もほぼ全部一人でやって、休みはまったくナシ。そこで、自分だけでやれることに天井が見えてきたんですよね。一人だと、社会にポジティブな影響を与えることまではなかなか難しいと思ったんです。

正直なところ、当時はコーヒーの世界にどれだけインパクトを残して、どう生きていくかということしか考えていなくて。外部の方とも関わる機会が増えるなかで、みなさん「自分たちのビジネスを通して、どう社会をよくしていこうか」という大きな志を持ってコーヒーに携わっていることを実感したんです。それで、僕の中ではビジョンやミッションが固まり切っていなかったことを思い知らされたというか。そこから自分の仕事にどういう意味があるのか、考えるようになりました。

そのビジョンを実現するために、会社化されたということでしょうか

そうですね。僕の場合は2017年までがビジョンやミッションを生み出すための準備期間でもあったと思っています。それを2018年に言葉にして、2019年に法人化したという流れです。遠回りしてきたとは思いますが、今は意思決定の軸になるビジョンがあるからすごく楽です。本当に悩んだ末に判断をすることって、事業をするうえで何度もありますよね。自分のバリューをしっかりお金にかえるのはもちろん重要だと思いますが、それだけを追求しすぎるとむなしくなっていってしまうこともあります。そこでビジョンやミッションという核があると、決断がしやすくなるんです。

井崎さんが描くビジョンやミッションとは、どんなものですか?

今は「コーヒーと人との素敵な出会いをプロデュースする仕事」というのがキーワードになっています。僕はセンチメンタルな青春時代を過ごしてきたので、「そもそも人間とは何か? なぜ生きているんだ?」なんてことを考えてきたタイプ。それと同じように、コーヒーの世界に入ってからは、「コーヒーとは」というのを常々考えてきました。こんなにも長い間、多くの人からコーヒーが好まれてきた理由を純粋に知りたいと思ったんです。なかなか答えは見つかりませんでしたが、あるとき「コーヒーって前向きな現実逃避だよね」という話が出てきたんですよね。

「前向きな現実逃避」という表現、面白いですね。

気分転換のためにコーヒーを飲む人って、多いですよね。現実と非現実だったり、気持ちの境界にコーヒーがある。コーヒーを飲むときの、ほっとする感情は世界共通です。そこで僕は、現実と自身を切り離して異空間へと導いてくれるような不思議な魅力が、コーヒーが人々に愛され続ける理由のひとつだと考えました。だから僕たちのミッションは、コーヒーそのものというよりも、その「時」をプロデュースすること。「コーヒーブレイクをアップデート」して、小さな幸せを世界中に作り上げることだと思っています。つまり、僕たちのミッションは「コーヒーを使った課題解決」で、ビジョンは「コーヒーを通した世界平和」。僕たちは、このビジョンを“Brew Peace”と呼んでいます。コーヒーを通じて何気ない幸せの連鎖を育むことができれば、世界はもっと平和になっていくと信じているんです。

バリスタと経営者、両方の感覚を持つことへの苦労などはありませんでしたか?

じつは大学卒業のタイミングでは、コーヒー業界を離れるつもりでいたんです。外資系コンサルティング会社に内定をもらって、MBAの勉強もしていました。ただ、その年の日本大会で優勝してしまって、コーヒーの業界で生きていくことを決めたんですけど(笑)。今となっては、就職に向けて勉強したことがとても役に立っています。

バリスタ時代も、自分の付加価値というものはすごく意識していましたね。自分の時給換算をしてみると、すごく安くなってしまったというのもあって。一流のシェフはものすごく収入を得ている人がいるのに、バリスタはそうはなっていないのにも疑問を感じていました。

正直、コーヒーの知識や技術だけであれば、僕と一か月みっちりやればかなり高いレベルになります。そんななかでも、交流のあるトップバリスタたちは本当に頭の良い人が多いんです。頭が良いというのは学歴などという意味ではなく、いろいろなことに興味を持って勉強するという意味ですね。これは本当に大事なことだと思っています。「コーヒーの勉強はこれ以上してもしょうがない」なんてみんな冗談を言っています。もちろん、そう言いつつもコーヒーへの勉強は欠かしていない人たちばかりですが。

QAHWAを設立されてからも、コンサルティングや商品開発などは変わらず続けられる一方で、2020年に入ってからはいくつか新しい取り組みもされていますね。

今年の7月から、自宅でコーヒーを飲みながら過ごす人たちが、地域や世代を超えてオンラインでつながる『Brew Home』という“クラウドカフェ”をやっています。新型コロナウイルスの拡大を機に始めたことではあるのですが、結果的に僕たちのビジョンである“Brew Peace”を体現するアクションにもなっているんです。緊急事態宣言前と比べて、社会的に孤独や不安を感じる人が多くなったからこそ、コーヒーの存在意義を改めて考えるきっかけにもなりました。これを収益化するんですか? とよく聞かれるけれど、実はなにも考えていません。とりあえず続けていくことで、僕たちの学びになることがあると思うんです。

クラウドファンディングもされていましたが、こちらも“Brew Peace”を実現するための一歩なのでしょうか?

QAHWA MILK(カフアミルク)という新しいコーヒー牛乳を作って、クラウドファンディングをさせてもらいました。
なぜコーヒー牛乳を選んだのかというと、コーヒー牛乳は「お袋の味」に近いポジションだと思っているから。お袋の味って、誰にもジャッジされないじゃないですか。それと同じように、コーヒー牛乳は品質基準や嗜好性を超えた誰しも飲んだことがある飲み物だからです。

また、僕たちのミッションとして、「コーヒーブレイクをより良いものにしたい」という思いがあります。すなわちコーヒーそのものというよりも、コーヒーが創る時間をいかにハッピーにできるかが重要でした。

それで血管拡張作用のあるとされるスパイスなどを原材料に使用し、極上のリラクゼーション体験を味わえる機能性コーヒーの開発に着手し、誕生したのがQAHWA MILKというわけです。僕たちの仕事は「より多くの人にコーヒーを届ける“入り口“を作ること」だと考えているからこそ、難しいことを考えなくても誰もが画一的なおいしさを味わえて、リラックスできるひとときを過ごせるという商品を目指しました。

親しみやすさやわかりやすさが必要な一方で、ただ単に大衆向けというだけでは本当の意味での“入り口”を作るのは難しいと感じます。コーヒーエヴァンジェリストとして世界的にキャリアを積まれ、実力、実績、知名度を持つ井崎さんだからこそできることなのでしょうね。

ありがとうございます。だから僕は圧倒的多数に届くというところを正義として仕事をしているんです。大きいチェーンさんだったり、まったく違う他業界のクライアントさんと仕事をさせてもらうことが、コンサルティング事業のひとつの方向性になっています。少しでも多くの人にコーヒーの力を届けて、そのなかの10パーセントや20パーセントの人が「コーヒーって面白いな」と感じてくれたら、結果的にコーヒー文化の発展や、”Brew Peace”につながると思っています。

さまざまな事業を通じてより広い層へコーヒーブレイクの魅力を伝えるために、どんなことを意識されていますか?

コンサルティングにおいては、クライアントさんも僕らも、消費者も、すべてがハッピーなことが大事だと考えているんです。良いバランスで解決法を見つけていくことが、成功につながるのかなと思います。今まで、いろいろな企業さんとお仕事させてもらってきましたが、以前は「消費者がハッピーであれば僕とクライアントの関係はどうなってもいい」と考えていた時期もありました。でもやっぱり、どんなに良いものができたとしても、クライアントがハッピーじゃないと売れないんですよ。僕はコンサルタントという仕事をするうえで、「売れる」という結果を出すのは重要だと思っています。そこで、クライアントと消費者と僕、三者にとってのハッピーが交わるようなものにできれば、たくさんの人に届くという現象になると感じています。

「三方よし」の考え方が大切なのですね。

はい。これからも大切にしていきたい考えです。それと、ご縁を大切にするというのもずっと心がけてきたことです。メールの対応とかもあしらおうと思えば適当にできちゃうかもしれないけれど、そういうことはしない。どんなに小さな仕事でも全力でやる。そうやってコツコツ取り組んできた結果、継続していろんな企業さんからお仕事をいただけているのはあると思います。今後も、誠意を尽くしてひとつひとつの仕事に丁寧に取り組みながら、人と人とのつながりや出会いを大切に、事業展開をしていければと考えています。

これまでの実績の華やかさや、取り組みの先進性も相まって、井崎さんのことをどこか遠い存在に感じる人もいるかもしれません。しかし、「三方よし」の考え方と、コツコツと誠意を尽くしてお仕事に取り組む姿勢は、地道ともいえるほど実直。専門性を突き詰めようと思えばいくらでもマニアックな発信もできるコーヒーの世界で、あえて入り口の役割を担うのも、井崎さんだからこそできることなのだと感じます。バリスタとしての道を極めた先にある可能性を垣間見ることができたような気がしました。

これからも、“Brew Peace”の実現を目指す井崎さんの活躍や、株式会社QAHWAの事業展開に注目です。

Photography:Keita Inaba

株式会社QAHWA
http://qahwa.co.jp/

笹沼杏佳

Sasanuma Kyoka

ライター/エディター。Webや雑誌、企業Webサイトなどでジャンルを問わず執筆。その人が夢中になっていること、好きなこと、頑張っていることについて聞くインタビューと、質感や触り心地など、感覚的な魅力を言葉にして伝えるのが好き。

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